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劇的変貌中!新京成の今


海洋建築工学科 3 4034 Y. K


1.      はじめに

   読者の皆様は新京成電鉄という鉄道会社をご存じだろうか。新京成電鉄は千葉県松戸市の松戸駅から、同県習志野市の京成津田沼駅までの26.5kmを結ぶ新京成線を有する鉄道会社だ。京成グループの一翼を担う企業で、関東では唯一の準大手民鉄に分類されている。京成グループに属する企業であるが、新京成線沿線にバス路線網を展開する船橋新京成バス、松戸新京成バスなどと共に、独自に新京成グループを形成している。準大手民鉄だがその知名度は高いとは言えず、鉄道事業についても優等列車の設定はなく、他社線への直通も京成千葉線へ片乗り入れするにとどまり、魅力的というよりかどちらかというと地味な鉄道だ。そんな新京成だが、今、これまでのイメージを覆す劇的変貌のただ中にある。当記事では、この数年で起こった新京成の変貌ぶりを紹介していく。そしてついでに当記事から新京成が持つ地味の中に隠された魅力を感じていただけると、大変幸いである。


2.      変貌の軌跡

2.1 シンボルマーク、コーポレートカラーの制定



写真1 電車に貼られたシンボルマーク

2014年春、新京成のイメージを一新するニュースが発表された。シンボルマークの制定とこれに合わせたコーポレートカラーの制定である。

新しく制定されたシンボルマークは「ステップマーク」と名付けられ、マークが持つ曲線は、やさしさと温かさを感じさせ、地域の人々から愛される新京成らしさを表現すると同時に、新京成のイニシャル「S」を表現している。ロゴマークに併記されたロゴタイプは、「shin-kei-sei(シン・ケイ・セイ)」と音節を区切ることで、リズミカルに読むことができ、親しみやすい工夫がなされた。

シンボルマーク「ステップマーク」の制定に合わせ、コーポレートカラーも新たに制定された。コーポレートカラーはメインカラーとサブカラーの二色が制定され、メインカラーには親しみやすく、やさしく、温かいイメージを込めて、「ジェントルピンク」と名付けられた明るめのピンク色を採用。サブカラーには、これまでの新京成電鉄においてコーポレートカラーの扱いを受け、各所で使用されていたマルーン色を継承する意味合いをこめて、「ニューマルーン」と名付けられた、これまで使用してきたマルーン色よりも明るめのマルーン色を採用した。

新たに制定されたシンボルマークもコーポレートカラーも、従来の新京成のイメージを覆すものであり、このニュースから新京成の劇的変貌が始まったのである。


2.2 車両デザインの変更



写真2 新車両デザインをまとった8800形電車

2014年春に発表された、新京成のイメージを覆すシンボルマークとコーポレートカラーの制定のニュースからほどなくして、さらなる劇的変貌を遂げるというニュースが2014年夏に発表された。車両デザインを新しくするというニュースである。新しく制定されたコーポレートカラーである「ジェントルピンク」を基調にした車両デザインを、4年かけて全車両に適用。これまでは各形式、編成ごとに異なっていた車両デザインが、今回の計画で統一される事となった。

車体下腹部にコーポレートカラーである「ジェントルピンク」を配し、車体上部(ステンレス車は車体腹部)にホワイトを配した奇抜な新車両デザインは、これまでの新京成のイメージを一掃するものであり、新京成の劇的変貌ぶりを決定づける出来事となった。


写真3 数種類ある旧色に新色が交じることで、大変カラフルな状態となった新京成の電車。変貌中ならではの光景だ。


2.3 駅看板および案内板のデザイン変更

駅ホーム、コンコース上等に設置されている看板および案内板のデザインも、新シンボルマーク、新コーポレートカラーに合わせたものに順次変更されている。

駅ホーム上に設置されている駅名版のデザインは、京成電鉄で新しく導入された駅名版のデザインを基調としながらも、中央部のラインのデザインに変更が加えられ、その印象は京成のそれと比べ異なるものとなっており、新京成の個性が醸しだされている。それ以外の案内板、柱に掲示されている短冊形の駅名版や、その他各種案内板のデザインに関しては、京成の新デザインの色違いと言って差し支えないものとなった。しかし、ほぼ京成のデザインと相違なかった旧デザインと比べ、新デザインはコーポレートカラーを配したことにより、新京成らしさが表現される結果となった。


写真4 新旧デザイン比較(通常の駅名版)。上が旧式である。京成の新デザインを基調としているが、細部のデザインに違いがみられるので、その印象は異なる。



写真5 【参考】京成電鉄で新しく導入されたデザインの駅名版



写真6 新旧デザイン比較(短冊形駅名版)。左が旧式である。新式は現代的で見やすいデザインとなった。


3.      変貌の中、活躍する車両

新京成電鉄では現在4つの形式が活躍中である。この章では、特集として新型車両であるN848編成を詳しく紹介しつつ、既存車全形式の概要と、変貌期の中での近況を紹介する。

3.1 話題の新型車、N848編成




写真7 北習志野駅に進入するN848編成



写真8 新津田沼駅で出発を待つN848編成


2005年に第1編成がデビューしたN800形であるが、N848編成はその第4編成である。20155月にデビューし、新京成で最も新しい車両である。

基本的には既存のN800形に準じているが、時代の変化に伴い、車内装を中心に既存のN800形とは異なる仕様となって登場した。その最たる特徴は、車内の案内表示器が従来のLED式からフルカラーLCD式に変更されたことである。画面左側では行先と次駅が4カ国語で表示され、右側ではこの先の駅や各種案内がイラスト付きで表示されるようになり、従来のLED式よりも格段に情報がわかりやすくなった。このほか車内照明がLED化され、従来車よりも明るい車内となり、前照灯も既存車で導入が進められているLED式の前照灯が、登場時から装備となった。



写真9 新京成初となったLCD案内表示器



写真10 車内の様子 照明はLED化されている


3.2 新京成最古参、8000



写真11 松戸駅で並ぶ8000



写真12 高根公団〜滝不動間を走行する8000


8000形は800形に変わる増備車両として、1978年に登場した車両である。新京成では初の冷房車として登場し、800形では片開きドアだった側面客用ドアには両開きドアを採用、側窓はユニット式2枚窓とし、前面は広い視界が得られる大型2枚窓を配した非貫通デザインを採用。当時の新京成においてサービス向上、輸送力の増強、車両の近代化に大きく貢献することとなった。

登場当初は主制御装置に抵抗制御と界磁チョッパ制御を採用していたが、2008年になると省電力、低騒音化を図るため、VVVFインバータ制御装置に換装された。しかし2010年に800形が全車引退すると、新京成における最古参形式となり、代替のN800形の増備が進むにつれ数を減らし、2016年現在では3編成が残るのみとなっている。また、新京成各車両に行われている新車両デザインの適用も唯一受けておらず、今後の展開が気になる形式である。



写真13 運転台の様子



写真14 内装の様子

新京成では唯一扇風機が残されており、夏場はこれに加え冷房も稼働するため、車内は暑い夏に嬉しい強冷房車と化す。


3.3 新京成の大黒柱、8800




写真15 松戸新田駅に進入する旧色をまとった8800



写真16 曲線を行く新車両デザインをまとった8800


8800形は1986年に登場した車両である。主制御装置には1500V電化路線用の電車としては世界初であるVVVFインバータ制御装置を採用し、鉄道車両の最先端を行く革新的車両として注目を浴びた。

8両固定編成として登場したが、時代の流れに合わせて2006年から6両編成化が行われ、現在では全編成が6両編成を組む。一部編成は京成千葉線への乗り入れ対応工事が施されており、先の6両編成化が行われた時期の違いも相まって、編成ごとに仕様や塗装が異なるのも特徴となっている。

仕様の差異については、8803編成がフルSiC適用VVVFインバータ制御装置を搭載しており、他の編成とは全く異なる走行音を奏でる。この他パンタグラフがシングルアーム式の編成、前照灯がLED式に更新された編成など、同じ8800形でも編成によって個性があるので大変面白い。塗装面においても新塗装となった編成、旧塗装編成があり、さらに旧塗装編成の中には線内運用編成と京成線直通対応編成とでまた違いがあるため、大変カラフルとなっている。しかし京成線直通対応編成の旧塗装は、20168月現在8812編成を残すのみであり、見納めが近いものと思われるので未練がある方は急がれたい。

2016年現在16編成が活躍しており、この数は新京成では圧倒的多数を誇り、新京成の最主力形式となっている。



写真17 運転台の様子



写真18 ドア上部にはLED式案内表示器が千鳥配置されている


3.4 新しい試みが溢れる、8900



写真19 旧色をまとった8両編成時代の8900



写真20 滝不動〜高根公団間を走行する新色の8900


8900形は、次世代の8800形を目指して1993年に登場した車両である。新京成の車両としては初のオールステンレス車として登場したほか、通常の通勤型車両としては、日本初のシングルアーム式パンタグラフを採用。側面客用ドアは通常よりも広くつくられ、そのドア上部にはLED式の案内表示器とデジタル式時計が設けられた。またこれに加え、新京成では初の車内自動放送化が行われている。主制御装置にはVVVFインバータ制御装置が引き続き採用された。

8両編成として登場したが、2016年現在全編成が6両編成化されたうえで、3編成が活躍している。20168月現在、全編成が新塗装になっているため、残念ながら旧色はもう見ることができない。



写真21 運転台の様子

新京成では無用の長物かもしれないが、将来に備えて一応120km/h運転に対応している



写真22 全てのドア上部にはLED式案内表示器と、通勤型車両としては珍しくデジタル式時計が設けられている


3.5 新京成の最新鋭、N800



写真23 前原駅に進入する旧色をまとったN800


N800形は、800形を置き換える目的で2005年に登場した車両である。京成3000形を標準仕様とする京成グループ標準設計を採用しているため、外見、搭載する装置などは京成3000形とほぼ共通となっている。しかし、窓枠には京成3000形同様の銀色ではなく黒色のサッシを採用、カーテンには沿線でよく栽培されているナシとブドウを模様に取り入れるなど、N800形独自の仕様がチラホラみられる。当時採用された塗装も、N800形独自の側窓周りにカラーを配するデザインとなっていたので、元となった京成3000形とは異なる印象の車両となった。

「人にやさしい車両」をコンセプトに車いすスペースの設置、座席中間にスタンションポールの設置等がなされているが、特記すべきは優先席付近の寸法変更である。優先席付近では、座席、網棚、つり革の高さが通常の座席のところよりも低くされており、高齢者等がより利用しやすいよう工夫がなされている。

2016年現在、最新鋭のN848編成を交えた4編成が活躍中である。



写真24 運転台の様子

4.      今後の新京成

新しいシンボルマーク、コーポレートカラーの制定、これに合わせた新デザインの各種案内板の導入、新車両デザインの全車両への適用など、現在実行されているものだけでもかなりの劇的変貌ぶりであるが、2016年に発表された中期経営計画(2016~2018年度)によると更なる躍進を遂げる模様である。発表された中から特記すべきものを抜粋すると、

・ 現在行われている鎌ヶ谷市内の連続立体化工事に関して、下り線を高架切替。

・ 電車の制御装置をフルSiC適用VVVFインバータ制御装置に更新し、大幅な省エネルギー化を図る。

・ 電車内装の更新。

・ 電車内の案内表示器をLCD式に更新。

等があげられる。今後の展開も大変楽しみと言えよう。


5.      おわりに

いくら準大手民鉄と言えど、直通先を含めても千葉県北西部内で完結してしまう新京成は、地味と言われても仕方がないかもしれない。しかし8800形と8900形では、それぞれ世界初、日本初の技術、装備を採用し、鉄道業界の最先端を行った。属するグループの中核企業である京成電鉄を差し置いて、次々と新技術や設備の導入を行った新京成電鉄。今もなお、奇抜な新車両デザインの導入や、車両装備の更新などで我々を楽しませに来ている。毎年10月ごろには車両基地の公開も行っており、グッズ展開も盛んにおこなわれているので、近くに寄られた際には、是非新京成に乗られてはいかがだろうか。



写真25 おいでよ新京成


6.      参考文献

・  『新京成電鉄五十年史-下総台地のパイオニアとして-』新京成電鉄株式会社,1997

・  新京成電鉄:http://www.shinkeisei.co.jp/『「シンボルマーク」と「スローガン」が新しくなります』新京成電鉄ニュースリリース,20145

・  新京成電鉄:http://www.shinkeisei.co.jp/『新京成線の「車両デザイン」が新しくなります!』新京成電鉄ニュースリリース,20147

・  新京成電鉄:http://www.shinkeisei.co.jp/『新車1編成 1222日から営業開始』新京成電鉄ニュースリリース,201512

・  新京成電鉄:http://www.shinkeisei.co.jp/『新京成電車に「フルSiC適用VVVFインバータ装置」を採用』新京成電鉄ニュースリリース,20162

・  新京成電鉄:http://www.shinkeisei.co.jp/『中期経営計画(2016年度〜2018年度)の策定について』新京成電鉄ニュースリリース,20164

・ 新京成電鉄 電車ミュージアム 車両紹介:http://www.shinkeisei.co.jp/welove/train_museum/train_list/,20168月参照

・  新京成電鉄 電車ミュージアム 歴史年表: http://www.shinkeisei.co.jp/welove/train_museum/history01/,20168月参照

・  『鉄道ファン20059月号』交友社,2005


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