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日本国内から姿を消した定期客車列車

−「客レ」の行方−


交通システム工学科3 4041 K. G


1. 「客レ」とは

 動力を持たない車両(客車)を機関車が牽引するスタイルで運転される列車、これがいつしか鉄道ファンの間では客レと呼ばれるようになった。いわゆる客車列車のことである。

 客レの「客」は客車の客から由来するのは容易に想像できるだろう。ではここで「レ」とは何か。深堀りすることになるが、ここで触れておこう。

 元来、鉄道には客車列車しか存在しておらず列車番号は数字のみで表記されるものであった。技術の進歩と共に気動車と電車が登場するとこれらを列車番号のみで区別すべく、列車番号末尾に気動車は「D」、電車には「M」が付与されるようになった。機関車牽引の列車は依然数字のみで表されるが、業務等で口頭で行うやりとりでは列車番号を数字のみで扱うと発着時刻や発着番線等といった他の数字と混同する恐れから「レッシャ」の頭文字をとって「レ」を列車番号末尾に用いることで列車であることを強調させたのが一つのルーツとされる。ただ、あくまでこれは通称であって「レッシャ」の略に過ぎないことに留意して頂きたい。

 こうした背景から、鉄道ファンの間では機関車牽引の客車列車を「客レ」と呼ぶようになったのである。


2. JRから姿を消した定期客レ

 ここ数年前までJRで運行していた定期客レは全て寝台列車あるいは急行列車であったが、もう少し時代を遡ると客車を用いた普通列車も数多く存在していた。乗車券のみで利用できた最後の定期客レは青森〜函館を結んだ快速「海峡」であった。50系客車や14系客車、繁忙期には12系客車も用いられ、青函運転所所属のED79型交流電気機関車が全区間に渡って牽引した。2002121日、東北新幹線八戸開業に伴い設定された特急白鳥・スーパー白鳥の運行開始によりこの「海峡」は廃止となり、50系客車の定期運用もこれで消滅。そして「海峡」廃止から14年、ついにJRから客車そのものを使用した定期列車が消滅。記憶にも新しい2016321日、青森発札幌行き急行「はまなす」が最後の列車となった。



写真1 急行はまなす 青森駅にて


 特筆すべき点として「海峡」「はまなす」は両者共に青函連絡列車であることだ。国内最後の定期寝台特急であった「北斗星」も同様の位置づけであり、青函連絡は日本の鉄道史に新たな1ページを刻む要素として大きな存在であることがわかる。

 同じく青函トンネルを走行した「カシオペア」「トワイライトエクスプレス」も前者は通常列車としての運行は終了し、後者は完全に廃止となってしまった。「トワイライトエクスプレス」はご存じの通り大阪〜札幌を結ぶ国内最長距離を走る旅客列車であったが20143月改正で同区間での運行は終了となり、JR西日本管内のみを走行するツアー列車として運行し山陽・山陰路を往く寝台列車として多くの注目を集めた。しかし、このツアー列車も20163月改正で運行を終了。四半世紀以上に渡って国内の主力寝台車両であった24系寝台客車の活躍もここまでとなった。

 また、寝台特急「日本海」も函館乗り入れの列車が20063月改正まで運行されており、青函トンネルを走行したもう一つのブルートレインだった。この「日本海」も20123月改正で通常運転を終了、それ以降は季節臨時列車として運転されたが201316日以降は設定されず、事実上の廃止となった。



写真2 札幌発大阪行き トワイライトエクスプレス

北陸本線・湯尾〜南条にて




写真3 日本海EF81 106号機牽引

臨時格下げ後は247両に編成が短縮された

東海道本線・千里丘〜岸辺にて




写真4 道内を行くカシオペア

函館本線・礼文〜大岸にて


3. 現在でも運行される”臨時”客レ

 現在、定期運用を失ったものの臨時列車としてJRで運行される客車列車はSL牽引のイベント系のものが多い。その中でもとりわけ運行頻度が高いのがJR東日本高崎支社管内、主に上越線高崎〜水上、信越本線高崎〜横川を走行するSLみなかみ、SL碓氷である。SL碓氷は折り返し駅である横川駅に転車台がないためSLの牽引は往路か復路のどちらかでDD51型ディーゼル機関車、または高崎車両センター所属の各電気機関車とのプッシュプル方式で運転され、客車は同車両センターに所属する12系客車、又は旧型客車(オハ47形、スハフ42形等)が使用される。SLはこの他、新潟〜会津若松を信越本線、磐越西線経由で運転する「SLばんえつ物語」や釜石線花巻〜釜石で「SL銀河」、JR西日本では北陸本線米原〜木ノ本で「SL北びわこ」、山口線新山口〜津和野で「SLやまぐち」など全国多方面でSL列車を運行し、当該地域の経済活動促進に一役買っている。



写真5 DL/SL碓氷 DD51 842号機先頭のDL碓氷号

信越本線・群馬八幡〜安中にて


 JR西日本には網干総合車両所宮原支所に12系客車と14系改造のサロンカーなにわ、下関総合車両所新山口支所に12系客車が所属している。特筆すべき点として、サロンカーなにわは現役最後のジョイフル客車であることだ。宮原支所には12/14系改造の和風客車「あすか」もいるが、201676日に編成両端の展望車2両が吹田工場へ廃車とみられる回送が行われており、現状では「あすか」は営業運行できない状態になっている。一方「なにわ」のほうは現在でもお召列車からツアー列車まで幅広く使用されており、JR西日本管内各地を走行している。



写真6 EF81 114+サロンカーなにわ

北陸本線・粟津〜動橋にて


 20163月改正で通常運行を終了した寝台特急カシオペア。しかしながら現在でも「カシオペアクルーズ」や「カシオペア紀行」などのツアー列車として運行を続けており、月に数往復程度であるが首都圏から北海道までを結ぶ夜行列車としてその姿を見ることができる。



写真7 カシオペアクルーズ

上越線・塩沢〜六日町にて

 

 以上のように、臨時列車扱いにはなったものの現在でも週末を中心に客車列車を運行している地域があり、機関車牽引列車独特の揺れ、国鉄当時の雰囲気をそのままに楽しむことができる。乗車券の他に座席指定券520円を払えば乗車可能なので、まだSLなどの客車列車に乗ったことがないという方は是非一度乗ってみてはいかがだろうか。(ツアー列車は除く)


4. JRで現在活躍中の客車

 現役の客車を所属別に以下の表のようにまとめた。


1 JRで現役の客車

会社

所属

形式

両数

備考

北海道

旭川運転所

14

4

SL冬の湿原号で使用

スハシ44

1

東日本

新潟車両センター

12

7

主にSLばんえつ物語で使用

高崎車両センター

12

7

1(オヤ12-1)は事業用

オハ47

3

 

スハフ42

2

 

オハニ36

1

 

スハフ32

1

 

尾久車両センター

E26

12

カシオペア

西日本

網干総合車両所

12

6

SL北びわこ等で使用

14

7

サロンカーなにわ

マイテ49

1

臨時SL列車等で連結される展望車

下関総合車両所

12

5

SLやまぐち用のレトロ調客車

スハフ12

1

予備電源車

九州

大分車両センター

77

7

富裕層向け寝台列車「ななつ星in九州」用専用車両



写真8 高崎車両センター所属の12系客車

中央本線・甲府駅にて



写真9 SL銀河用 C58 239号機の試運転

後ろの12系はオヤ12-1

信越本線・安中〜磯部にて



写真10 高崎車両センター所属の旧型客車を用いた乗務員訓練

八高線・小川町〜竹沢にて



写真11 網干総合車両所宮原支所所属の12系客車

SL北びわこ号運転に伴う米原への送り込み回送

東海道本線・塚本駅にて


4-1.自走可能な客車!?

 既にお気付きになった方もいるかもしれない。表-1においてSL銀河用の客車が載っていないということだ。あえて載せなかったのである。

 というのも、SL銀河用の客車は元JR北海道のキハ141系で完全な気動車、つまり自走が可能で客車には含まれないと考えた為である。SL銀河の走行区間である釜石線内の連続する勾配区間にSL単独での運転は困難であるとされ、これに対応する為の策である。全国各地のSLとは変わったスタイルでの運転で、SL銀河の特徴とも言えよう。




写真12 2014378日に運転された「みちのくSLギャラクシー」

東北本線・東鷲宮〜栗橋にて


東北復興支援の一環でフジテレビ主体で企画された。このキハ141系が当企画に全区間使用され、釜石〜上野を直通運行。釜石〜花巻をC58 239、花巻〜郡山をED75 757、郡山〜尾久をEF510 515、尾久〜上野をD51 498が牽引した。


5.おわりに

 ここまでJRだけに視点を置いてきたが、客車列車は地方私鉄においても多く運転されており、はまなす用の14系客車が大井川鉄道に譲渡されたニュースは記憶に新しい。首都圏から程近い秩父鉄道や真岡鉄道でもSLが運行されており、私鉄を含めて見るとまだまだ全国各地で客車が活躍する姿は見ることができ、ビジネスや出張、旅行の手段として用いられてきた客車寝台、普通客車も今では地方私鉄への譲渡で観光需要、地方経済活性化という新たな需要に応えて活躍している。時代の流れというのは避けられない現実だが、これに柔軟に対応するのが何事も長生きするためには必要なことだろう。そうしたことから、「客レ」はある意味で新しい時代に突入した、と言えるかもしれない。



写真13 寝台特急「あけぼの」

新津駅にて


6. 参考文献

・「みちのくSLギャラクシー号」運転 - 鉄道ニュース・鉄道ファン(交友社)

http://railf.jp/news/2014/03/08/170500.html (2016/09/01閲覧)

・東北でSLが復活します〜SL銀河鉄道〜 - 東日本旅客鉄道株式会社

https://www.jreast.co.jp/press/2012/20121003.pdf (2016/09/01閲覧)

・「JR旅客会社の車両配置表」- 鉄道ファン20167月号(交友社)

・特急「日本海」 - 鉄道コム https://www.tetsudo.com/kakenuke/127/ (2016/09/01閲覧)

・「普通客車列車」鉄道データファイルDVDコレクション - ディアゴスティーニ・ジャパン (2016/08/09視聴)


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