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内房特快の実力とは?

−交通機関選択モデルからみるJR内房線−


交通システム工学科 3 4108 M.M


1. 内房線の現況

 内房線はJR東日本千葉支社が管轄する千葉県の西側を走る路線である。この路線は蘇我駅から館山駅を経て安房鴨川駅までの全119.4kmを結ぶ路線で、1912328日に全線が開業した。内房線は房総西線とも呼ばれ房総東線(外房線)と共に房総循環急行列車など様々な列車が運転されていた。



1 内房線位置地図(地理院地図)


2016年現在、主な運行形態としては特急さざなみが東京〜君津(京葉線経由)を9往復しており、総武快速線からは終日、君津または木更津まで直通運転が行われている。その他に京葉線から朝晩に乗り入れがある。主に内房線の普通列車には全区間において209系電車が使用されている。写真1-11-52016年現在内房線を走る車両である。(イベント列車などは除く)



写真1 255



写真2 E257



写真3 E217



写真4 E233系(209500番台を含む)



写真5 209系(500番台を除く)


特急さざなみは2014年度まで定期列車として東京〜館山を結んでいたが、2009年より東京湾アクアラインの通行料金が引き下げられたこともあり、対抗する高速バスにシェアを奪われるような形で君津〜館山の定期運行は廃止に追い込まれている。



2 内房線停車駅(2016年現在)


 今回は内房線の衰退した特急に変わり登場した内房線特別快速について交通機関選択モデルを用いてその実力をみることにする。


2. 内房線特別快速の概要

 内房線特別快速(以下特快と記す)は2015314日のダイヤ改正より、内房線の特急さざなみ1号、4号、6号、7号、11号、12号、13号の館山〜君津の運転取りやめに伴い、特に下りのさざなみ1号と、上りのさざなみ12号の代替えとして新設された特急料金不要の快速列車である。特快に使用される車両はE217系の基本編成11両と付属編成4両の15両で、東京を発車してから木更津までは15両で走行し、木更津からは11両を切り離し、館山まで4両で走行している。



写真6 基本編成の回送



写真7 付属編成の特別快速


 特快の東京〜館山の所要時間は2時間8分となっており、特急さざなみ1号の1時間52分に比べても所要時間の差はわずか16分と特急並みの速達性を実現している。しかし運転日は平日のみで下りは東京8:03発で館山10:10着、上りは館山17:05 発で東京19:14着の1往復にとどまっている。停車駅は東京、錦糸町、船橋、津田沼、千葉、蘇我、五井、木更津、君津、佐貫町、浜金谷、保田、岩井、富浦、館山の15駅である。

ここでフリーソフトOuDiaを使用して東京から乗車すると仮定し、安房鴨川〜館山のいずれかの駅まで利用するとした場合の、内房線朝下りの特急さざなみ1号と特快の利便性を簡易的に比較した。(都合により駅を省いて記載)



3 改正前(2015313日まで)


 図3より、特急さざなみ1号を利用した場合、館山に到着後、安房鴨川行きの普通列車接続まで50分と時間がある。また普通と快速で東京から来る場合は東京を652分に出発しなければならない。せっかく特急を利用しても安房鴨川〜館山の駅を利用する人にとっては不便である。



4 改正後(2016年現在)


 しかし図4よりダイヤ改正後は特快を東京から利用すると館山での安房鴨川行の普通列車にすぐ乗り換えられるので大変便利である。普通列車と快速を利用する場合でも改正前よりも東京を出発する時間が718分と繰り下がっており、より利便性の高いダイヤであることがわかる。

このような利便性の向上による時間短縮は高速バスに対抗するためと思われるが、特快は木更津での切り離しに8分ほどかかっている。この理由にはE217系の基本編成11両が館山方に連結されているため基本編成を完全に本線から引き上げ線に走行しなければならないのでこれ以上の時間短縮を図るのは物理的に困難である。

 特快の運賃は特急料金が不要なので東京〜館山は2,270円である。特急さざなみを使うより自由席料金の1,380円分、安くなるので高速バスに対抗できると考えられる。このように特快は特急さざなみに比べて、より利便性が高い列車となっていることがわかる。特急さざなみの廃止には様々な要因があるが東京湾アクアラインの通行料金値下げによって台頭した高速バスにより、利用者が低迷したことも廃止の原因である。特快はその特急の代わりとして交通費を抑え、速達性を求めた列車である。


3. 東京湾アクアラインの高速バス

競合する高速バスは東京湾アクアラインを経由し主に東京〜館山を結ぶ「房総なのはな号」である。2016年現在、高速バスを運営する事業者は主にジェイアールバス関東と日東交通の2社となっており便数は平日の下り東京から館山は27本、上りの館山から東京も同じく27本とかなりの便数が運行されている。その他にも新宿からの「新宿なのはな号」や他会社による横浜、羽田からの高速バスが運行されている。休日は臨時便合わせて約30本が運行している。


1 房総なのはな号の料金(※2

東京〜館山

車内運賃

事前運賃

早売1

早売14

通常決済(円)

2,500

2,470

2,420

2,350

高速バスネットの場合(円)

2,350

2,300

2,230


 続いて高速バスの料金は早売14が最も安くなっており、高速バスネットで購入すると2,230円で、JR線の東京〜館山の普通運賃2,270円よりも40円安い値段である。所要時間については東京〜館山を1時間48分で結んでおり特急さざなみより速く、料金も安くなっている。



5 房総なのはな号年間利用者と館山駅日利用者の推移グラフ(※1、※3


 高速バスは道路の交通状況によって所要時間にバラつきがあるため電車に比べて安定性や定時制には劣るが、安さは魅力的であり、図5より高速バスの利用者が増加していることがわかる。その一方でJR館山駅の日利用者数は減少の一途をたどっており、このことから鉄道利用がバス利用に転換していることがわかる。


4. 交通機関選択モデルによる比較

比較を行う前に交通機関分担モデルについて説明する。交通機関選択モデルは利用者が交通機関をどのように選択しているか、一般化費用の考え方に基づき一般化費用が最小になるような交通機関を選択することを前提としている。今回は運賃と時間費用の合計を一般化費用として、それが最小になるように行動する条件とした。交通機関選択モデルは1971年に当時の運輸省(現国土交通省)が提案したモデルを使用する。


 ・・・(1)

は、交通機関kの運賃、は、交通機関kの所要時間、は利用者の時間価値、は一般化費用を表している。

 まずは下りの特快並びにに特急さざなみ1号とその時間帯に走行する房総なのはな号(5号)を想定して比較を行う。



6 内房特快とさざなみ1号、房総なのはな号の車内運賃での比較


最初は運賃面で優位な特快が房総なのはな号よりも利用者に選択されるが、時間価値13を超えるあたりから所要時間で有利な房総なのはな号が優位に立ち、シェアが入れ替わる。

つまり、特快は交通費を安く抑えたい人には、ある程度利用してもらえる可能性があることを意味している。一方で特急さざなみ1号は房総なのはな号より所要時間と運賃どちらも及ばないために利用者には選択されないことがわかる。このことから高速バスに利用客を奪われ特急が廃止に追い込まれたことに納得することができる。次に早売14のバスネット決済での運賃と比較を行った。



7 内房特快とさざなみ1号、房総なのはな号の早売14での比較


 早売14については特快においても運賃面で劣るために、利用者は房総なのはな号を選択することがわかる。極端に言えば、東京〜館山を利用する人は房総なのはな号を選択するので鉄道は利用しないといえる。このように早売の場合は特快でも高速バスに劣っており太刀打ちできない状況である。


5. まとめと内房特快の今後

 交通機関選択モデルにより特快の実力が明らかとなったが中途半端な印象を受ける。現状では特快の存続も危ぶまれる状況で何らかの打開策を考えなければ内房線はますます衰退していくことになると感じさせられた。また特急さざなみに関しては、廃止は仕方がない結果である。内房特快が存続するには運賃の値下げ、更なるスピードアップを目指すしかないが、現状では厳しい状況で、たとえ木更津での切り離しのロス時間を1分に短縮したとしても房総なのはな号の早売14など低価格を売りにする高速バスには効果がないといえる。



写真8 東京駅の電光掲示板にて


 特急さざなみが消え、代わりに誕生した特別快速だが存続は厳しい状況だ。この灯が消える前に乗車して欲しい。こうして地域を支えてきた鉄路がモータリゼーションの波に飲み込まれ、廃れていくこの現状に私は寂しさを感じる。今後の内房線の巻き返しに期待をしたいところである。


〜参考文献〜

・竹内健蔵. 交通経済学入門. 有斐閣. 12008 : 2章「交通サービスの特殊性」

交通機関選択モデルp48~p50

・交通新聞社. 全国版コンパス時刻表20168. 6815p203

・交通新聞社. 小型全国時刻表20118. 639p143

・※1 南房総市ホームページ. 暮らしの情報. 公共交通.

南房総市地域公共交通網形成計画. 南房総市地域公共交通網形成計画書(平成278月策定). 1-2交通現況 p10~p14

http://www.city.minamiboso.chiba.jp/cmsfiles/contents/0000007/7990/minamibososhi_moukeiseikeikaku.pdf

・※2 ジェイアールバス関東株式会社. 房総なのはな号の運賃http://time.jrbuskanto.co.jp/bk040440.html#fare_01

・※3 JR東日本:東日本旅客鉄道株式会社. 企業・IR・採用. IR情報. 各駅の乗車人員.

 http://www.jreast.co.jp/passenger/

〜使用ソフト〜

OuDia http://take-okm.a.la9.jp/ ダウンロードして使用


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